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東大阪市立小学校の運動会で組体操の「人間ピラミッド」の実施が予定されていることについて

 東大阪市立小学校の運動会で組体操の「人間ピラミッド」や「人間タワー」が実施される予定らしい。ツイッターで情報が拡散されて、批判が集まっている。


 人間ピラミッドとは、四つんばいになった人間が三角形状に重なってピラミッドのような形をつくる集団演技(マスゲーム)のことだ。
 人間タワーも同じようもので、こっちは人間が重なってタワーのようなを形をつくる。



写真 昭和26年中学校・高等学校 学習指導要領 保健体育科 体育編 (試案)
https://www.nier.go.jp/guideline/s26jhp/chap7.htm


 日本では運動会で組体操の演技として生徒によって行われることが多い。なお、組体操と組立(くみたて)体操が区別されることもあるらしいが、ここでは特に区別しないことにする。


 ウィキペディアで検索すると、簡単な組体操については、紀元前2000年頃に描かれた古代エジプトの壁画でも確認できるとの記載があった。そう言われると教科書か何かで見たような気がする。



 人間というのは器用だし、複数人の間で細かな意思疎通ができる。何人か集まれば、道具を使わずに生身の体だけで様々な形を作れることに誰だって気づくだろう。大昔からこういったことが行われてきたのは必然とも言える。


 スペインのカタルーニャ地方では祭りの際に「人間の塔」が披露されることがある。カラフルな衣装を身にまとった男たちが肉体だけで塔を築き上げている様子をテレビで観たことがある人も多いのではないだろうか。
 なぜこんなことをして熱狂しているのだろうか、と思わないこともないが、祭りというのはだいたいそんなものだ。なぜか裸になったり、なぜか水をかけられたり、なぜか燃やしたり、なぜか坂を滑り降りたり。肉体的、心理的な負荷を伴うものや危険なものも少なくない。その地域の信仰や文化と関係する何かしらの意味があって、古くからの伝統を継承しているのだろう。


 しかし、学校でこれらピラミッドやタワーといった組体操の演技を強制的に行わせることは、正直ちょっと意味が分からない。

 学校は教育が行われるところで、生徒は教育を受けに学校に行っている。大人が自分の意思でするならまだしも、組体操は教育の現場で児童生徒に強いるものではない。

 筆者も小中学生のとき、運動会で組体操をやった。ホイッスルや音楽に合わせて肩車をしたり、膝の上に乗ったり、ピラミッドだったか何だったか忘れたがクラスメイトの体に上ったりした。

 当時も意味が分からなくて嫌々やっていたが、今改めて考えてみてもやはり意味が分からない。いったい何が目的なのか。
 教育的な意義があるという合理的な説明ができるのだろうか。


 東大阪市の某小学校のウェブサイトを見ると、校長先生が運動会の組体操について語っていた。

 「最後の組体、さすがは高学年という出来栄えでした。 直前の練習ではあまり決まらなかった技もどんどん決めることができました。立体ピラミッドでも顔をしかめながらよく耐えていました。上にのぼる者は土台の 人の痛みやしんどさを思い、土台の者は上の人の恐怖感を思い、絶対落としてはならないと心に誓って取り組んでくれていました」

 思うに、組体操とは、あえてつらいことをさせて、けれども仲間と一緒にそれを乗り越える体験をさせるためのものなのだ。
 この校長先生の言葉にもあるように、「耐える」「痛み」「しんどさ」「恐怖感」というものが要素になっていて、それをみんなで乗り越える儀式みたいなものなのだろう。

 本質的には、集団でなければ乗り越えられない試練を設定することによって、集団の一部として行動する姿勢や、指示に対して集団として従うことを学ばせているのだと思う。

 そして、子どもたちがそうやってつらい思いをしながら真剣に演技に取り組む様子を見て、大人たちが感動するためのエンターテイメントにもなっている。

 なるほど、子どもたちにとっても仲間と達成感を共有できる体験なのかもしれない。けれど、それは組体操でなくてもいい。ピラミッドやタワーを実施することによってしか得られないものではない。


 何より、組体操は危険だ。
 2015年9月、大阪府内の中学校で10段の人間ピラミッドが崩れ、生徒6人が重軽傷を負った。
 ネットに上がっている動画を観ると、明らかに危険な行為だということが分かる。
 この事故を契機にして国会でも組体操の危険性が取り上げられるようになり、2016年3月25日にはスポーツ庁が各都道府県の教育委員会等に対して安全性を確認できない場合の実施見合わせも含めた注意喚起を行なった。
http://www.pref.nara.jp/secure/156471/【別添写し】スポーツ庁事務連絡.pdf:image=http://www.pref.nara.jp/secure/156471/【別添写し】スポーツ庁事務連絡.pdf


 この事故だけではない。政府が公表している資料によると、組体操により年間8000件を超える負傷事故が発生しており、昭和44年以降に9人が死亡、障害の残った子どもは92人に上る。
https://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/anzen_school/28jireisyu.pdf


 それなのに、なぜそんなにピラミッドやタワーを実施したいのだろうか。
 

 死傷者がでるようなことをする必要はない。いや、そんな危険なことを学校行事でやらせてはいけいない。

 間違っても校長先生をはじめとする大人たちの満足のために子どもを危険にさらすなんてことは、あってはならない。

 この件については、保護者からも反対の声が上がっているようだ。拡散されている情報によると結構な高さのピラミッドを予定しているとのことで、子どもの安全を心配するのは当然のことだ。
 
 東大阪市立小学校は、保護者の声に耳を傾けて、運動会でのピラミッドやタワーの実施について、見合わせを含めてもう一度考えてほしい。