「桜を見る会」野党ヒアリング 内閣官房が担当する安倍首相枠、与党議員枠推薦者名簿の行方
2019年11月13日、総理大臣主催「桜を見る会」の問題に関する野党4党合同追及チームによるヒアリング第2回が行われた。
立憲民主党の黒岩議員が座長となり、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社会民主党の国会議員が各府省庁の担当者との質疑応答を通して、桜を見る会の問題に関する真相を究明しようとするものである。
動画はこちら。
チャンネル:石垣のりこ
第1回 第2回 第3回
チャンネル:Movie Iwj
第1回 第2回 第3回
重要なやりとりがあったので、本記事で取り上げたいと思う。
なお、桜を見る会について取り上げた今年5月の記事も読んでみてほしい。
ヒアリングでどんなやりとりがあったのか?
冒頭の挨拶、内閣府の資料説明の後、国民民主党の原口議員が手を挙げ、座長の黒岩氏からマイクを受け取った。
「先ほどのレク、ありがとうございました」
原口氏は、内閣府に礼を述べると、柔和な表情を浮かべ、静かに切り出した。
「私たちが知りたいのは、政治家の枠がどこから来たかということなんですね。」
ひとつひとつ自身の言葉を確かめるように、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で続ける。
「それもさっき伺ったんですが、内閣府とすると各省からの推薦だけを受け付けている、というお答えだったんですが、それはそれで結構ですか。」
内閣府・大臣官房総務課長の酒田氏が答える。
「はい、内閣府は各省からの推薦名簿というものを受け取っています。」
間髪入れず、国民民主党の奥野議員が尋ねる。
「先ほどね、官房長官会見で官房長官が、首相官邸、与党に推薦依頼を行っていることを明らかにしたという報道が流れているんですが、これは嘘ということですか。」
「内閣官房でございます。内閣官房のとりまとめにおきましてですね、長年の慣例といたしまして、官邸内、それから与党に対してですね、推薦依頼を行っているところでございます。」
内閣官房・内閣総務官室内閣参事官の中井氏が答えると、野党席にどよめきが起きた。
原口氏としては予想通りの回答だったのだろう。内閣官房の回答を受け、そのまま続ける。
「そうなんですよね。だから、今のとっても大事で、内閣府は、各省からだけを受け取っている。そして、そこに政治家枠があるかどうかは、内閣府は、分からない。」
視線を向けられると、内閣府総務課長は素早く簡潔に答えた。
「内閣府は、各省庁、各府省庁からの推薦名簿を受け取っているというところでございます」
原口氏は続ける。
「だけですよね。そして、内閣官房は、政治家あるいは党からの推薦枠を受け取って、それを内閣府に渡してる。これ正しいですか。」
内閣官房参事官の中井氏が、やや早口で説明する。
「内閣官房、内閣府で共同の事務局をやっておりますので、取りまとめの際に、一省庁としての内閣官房についての推薦をその中に入れているという形でございます。」
原口氏。
「そうですね。つまり、内閣官房が。その枠は何人ですか。」
内閣官房。
「特に枠の設定はございません。」
ここで、原口議員の顔色が変わった。笑みが消え、目つきが厳しくなる。
「いやいや、それおかしくないですか。だって、全体で1万でしょ。1万は、内閣府に訊きますが、なんで決まってるんですか。」
視線の先の内閣府総務課長が落ち着き払って答える。
「開催要領で決まっているということです。」
視線を内閣官房参事官に戻し、原口氏が強い口調で問う。
「開催要領で1万て決まってんのに、なんで内閣官房は枠なしで推薦を持ってるんですか。」
参事官がまたやや早口で答える。
「内閣官房全体としてということで申し上げるとですね、必ずしもそこは、最後の取りまとめの段階でございますので、枠というものが特に決まっていないということでございます。」
野党席から、「なんで枠がないんだ」と声が飛ぶ。
田村智子参議院議員が、確かめるように尋ねた。
「各省に推薦名簿を作るように、内閣官房が、ひとつの省のようになって、名簿をつくっているという風に理解してよろしいでしょうか。」
内閣官房参事官がジェスチャーを交えて答える。
「内閣官房、内閣府で最後に取りまとめをいたしますので、その過程で、内閣官房分ということで、官邸内、それから与党のご推薦の分も含めて取りまとめをしているということです。」
内閣官房が、各府省庁からの取りまとめだけではなく、独自の枠を持っているということだ。
この枠こそが、問題の核心部分、安倍首相や与党議員の推薦枠である。
野党席からの質問。
「今年何人ですか。」
内閣官房参事官が答える。
「すいません。今年の分につきましてはもう名簿を廃棄しておりますので数は分かりません。」
さらに「昨年は。」と問われると、
「昨年も分かりません。」
参事官は答え、さらなる質問に備え、唾を飲み込んだ。
間をおかず、原口氏が尋ねる。
「いや、そうするとね、総務省とか文科省は10年というのがありましたね。で、内閣官房も同じような文書保存規定を持っているはずですけど、それを出してください。」
内閣官房参事官が応じる。
「かしこまりました。ちょっと今持ち合わせがございませんですけれども、提出させていただきます。」
原口氏が「何年ですか。」と続けると、
「1年未満でございます。」
はっきりと言い切った。
原口氏が確かめにかかる。
「1年未満ですか。発送表じゃないんですよ。つまり、推薦名簿、推薦名簿を内閣府に出しますね。そしたら内閣官房は、その中で、この人とこの人とこの人はいいですよってのをもらうでしょ。つまり、推薦したもの全員入りますか。違うでしょ。」
内閣官房参事官は、質問内容をやや理解しかねているかのような表情を浮かべながらも、答えた。
「先ほど申し上げたように、内閣官房と内閣府で最終的に取りまとめをいたしますので、その段階で、内閣官房分をそこに、中に入れてまいりますので、最終的には、内閣府からご説明したように名簿という形になります。それはもう最終的にもう廃棄をしているということでございます。」
「最終名簿の調整はどこがするの。内閣府なの。内閣官房なの。」
野党席から質問が飛ぶと、
「共同でやってございます。」
参事官は素早く答える。
「それはだから、発送者、招待者の名簿の話でしょ。そうじゃなくて、推薦者の名簿。内閣官房からの推薦者の名簿の保存期間は何年。」
「1年未満でございます。」
野党側からの質問に対し、素早く簡潔に答える。
「他のと違いますよね。」
と野党。
「他のと違うとは。」
と参事官。
原口氏。
「文科省の推薦名簿、10年でしょ。」
内閣官房参事官が応じる。
「それは各省ごとに違うということだと思います。それは文書管理規則がそれぞれに決まっているところです。」
「やりたいことを好き勝手にできるってことじゃないですか。」
野党席から呆れたような声が出てくる。
「我々としては文書管理規則に基づいてやっているということでございます。」
参事官が言い返す。
野党席から「隠蔽、やりたい放題だね」との声が発せられると、参事官はため息をついた。
やや騒がしくなる場内。日本共産党の宮本議員がマイクを握る。
「推薦枠はいくらでもあるということなんですけども、安倍事務所からの推薦もあったということでよろしいですね。」
少しばかり言葉に窮しながら、参事官。
「総理からの、総理室というかですね、事務所に最終的には確認をして、推薦をいただいております。」
宮本氏が続ける。
「安倍事務所ですか。地元事務所ですか。議員会館の事務所ですか。」
「我々がですね、事務的に、総理室を通じてですけれども、総理室で取りまとめているわけでは、必ずしもない、という風には思いますので、そこは事務所に訊いていただくことではないかと思います。」
参事官は答えにくそうに応じた。
内閣官房が担当していた総理枠、与党議員枠の名簿は本当に廃棄されているのか?
さて、ここからもまだ質疑応答は続くわけだが、そろそろこの記事の本題に入る。
桜を見る会の招待者は、各府省庁からの推薦に基づいて最終的に内閣官房と内閣府が取りまとめて決定する、というのが政府側の説明だ。
そして、11月13日のこのヒアリングで、取りまとめ役である内閣官房からも招待者の推薦を行っていることが確認できた。
上でも述べたが、この内閣官房からの推薦こそが今回問題となっている総理枠(安倍首相枠)、与党議員枠なのだ。
つまり、内閣官房は他の省庁と同じように推薦名簿を持っているはずであり、その名簿には総理枠、与党議員枠によって推薦された人々の名前が載っているというわけだ。
その推薦名簿について内閣官房の参事官は、保存期間1年未満の文書としてすでに廃棄している、と説明した。
が、この部分について、どうも内閣官房の説明は怪しい。
翌日14日のヒアリングでは、内閣官房は、廃棄した名簿について、内閣官房行政文書管理規則7条9項2号の文書にカテゴライズしていると説明した。
7条9項2号の文書とは、「定型的・日常的な業務連絡、日程表等」に当たる文書のことで、保存期間を1年未満とすることができる文書の一例だ。
しかし、ここが重要なのだが、これは総理枠、与党議員枠の推薦名簿のことではない。
内閣官房がこの7条9項2号にカテゴライズし、保存期間1年未満文書として廃棄したのは、各府省庁から推薦名簿を取りまとめた末に作成した招待者名簿のことである。
内閣官房から出した推薦者名簿が「定型的・日常的な業務連絡、日程表等」に当てはまる文書というのはさすがに無理がある。
14日のヒアリングでも指摘されているが、他の省庁では10年の保存期間とされている文書が、内閣官房だけ1年未満で廃棄されるのはやはりおかしい。
そして、仮に1年未満文書だったとして、廃棄した場合にはそれを速やかに公開するというルールがある。規則11条6項だ。
内閣官房はそれに従ってウェブ上で廃棄した1年未満文書を公開しているが、令和元年4~6月、7~9月期のいずれも該当がない。
内閣官房 行政文書ファイル等の廃棄の記録(保存期間1年未満)
情報公開・公文書管理 行政文書ファイル等の廃棄の記録|内閣官房ホームページ
なお、この公開に関しては先ほどの7条9項各号の文書は対象外のようだが(規則11条参照)、内閣官房からの推薦者名簿は7条9項各号の文書には当たらず、もしそれが1年未満文書として廃棄された場合はここに公開されるはずだ。
ここに公開されていないということは、廃棄されていないか、廃棄したにもかかわらず公開していないか、のどちらかということになる。後者はもちろんルール違反だ。
桜を見る会に関しては、総理大臣による有権者の買収、税金の私物化といった語り口で取り上げられることが多いが、文書管理の問題も重要な論点として含まれている。
各府省庁の担当者との質疑応答によって進められる野党合同ヒアリングの性質上、最重要論点と言ってもいいだろう。
14日のヒアリングでは、名簿の紙媒体については5月9日に廃棄され、電子媒体についても同じ頃に廃棄されたことが明らかとなった。
日本共産党の宮本徹議員が本件の調査のために内閣府に情報提供を求めていた時期と符合し、内閣府による情報隠蔽の疑いも強まっている。
週明け月曜日からのヒアリングでのさらなる追及に注目したい。