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誰のための水道民営化なのか

 水道法改正の審議の中で、ヴェオリア社日本法人の社員が内閣府の担当部署に出向していることが明らかとなった。同社は水道事業に関して世界的に有名な企業であり、水道民営化についての利害関係者と言える。有利になるような内部情報に触れることができたとなれば問題がある。

 この法案は今年7月5日に衆院本会議で可決された。記録的な豪雨によって西日本が平成最悪の水害に見舞われている最中のことだ。
 水道施設運営権を民間事業者に設定できる仕組みが盛り込まれているため、水道民営化法案とも呼ばれている。
 先の国会での成立は見送られたが、11月22日、参院厚生労働委員会で審議入りした。

 

 福島瑞穂議員の指摘により内閣府への社員の出向が明らかとなったヴェオリア社日本法人は、すでに全国の自治体から水道料金徴収業務等を受注しており、さらに今年4月からは同社を含む企業連合が浜松市の下水道事業を担っている。

 極めて重要な水道とういインフラの運営を民間企業に託すことについて、どのように話が進んでいったのか気になるところだ。

 今回はヴェオリアではなく、別の人物に注目したい。
 竹中平蔵氏だ。

 水道民営化については、政府内に置かれた産業競争力会議や未来投資会議というところで活発な議論がなされてきた。竹中氏は民間議員としてこれらの会議に参加している。
 どのような話があったのか見てみよう。

 2014年5月19日、第5回経済財政諮問会議産業競争力会議合同会議での竹中氏の発言。

 ”今日議論したいのは、コンセッション、つまりインフラ運営の民営化についてである。資料は8-1、8-2であるが、後でご覧いただきたい。 昨日、香港から帰ってきたが、香港で大変話題になっていた会議がある。それは、5 月2日に国土交通省が開いた仙台空港のコンセッションに関する説明会である。そこに 140社集まったということで、これに対する海外投資家も含めた関心の高さが伺える。海外の投資家から見ると、GPIFの話とこのコンセッションの話に大変関心がある。 仙台空港の他にも、大阪市浜松市上下水道の話等、具体的な話が出つつある。”

 「コンセッション」とは、道路や空港、水道などのインフラについて、所有権を自治体などの公的機関に残したまま運営を民間に任せる方式のことだ。先に述べた浜松市の下水道事業について、このコンセッション方式が採用されている。
 発言は続く。

 ”3点申し上げたい。1点目に、昨年6月の成長戦略でアクションプランを作ってほしいと申し上げて、アクションプランが作られた。その中に数値目標が書かれており、このインフラの運営権の売却、コンセッションを10年で2~3兆円行うという目標が掲げられた。今回いろいろな役所の方の配慮をいただき、副大臣政務官の指導もいただいて、この10年の2~3兆円の目標を3年に前倒しをする。その3年間を集中期間と位置付けて、しっかりとやるということを提案したい。”

 コンセッションについての数値目標が出てくる。10年で2〜3兆円もインフラの運営権を売却するというのも驚きだが、竹中氏はそれを3年に前倒ししたいらしい。
 さらにこう続ける。

 ”そして、2~3兆円の内訳として、空港6件、上水道6件、下水道6件、有料道路1 件、これを最低限の目標として掲げてやっていく。これはメッセージ性があるのではないか。有料道路に関しては、これを特区の枠組みでやるというような話を進めており、 これに関する法律改正は速やかにお願いしたい。”

 「空港6件、上水道6件、下水道6件、有料道路1 件」という具体的な数字を出しているが、実はこれがそのまま政府の目標になる。

 2014年6月16日民間資金等活用事業推進会議決定「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプランに係る集中強化期間の取組方針について」の中に同じ数字が登場し、国土交通省もこの数字を使っている。

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 これについて、田村智子議員が今年6月20日に参院内閣委員会で指摘している。

 ”こんな具体的な提案で、実はこれ、そのまま政府の目標じゃないですか。空港六件、下水道六件、有料道路一件、水道六件。そうですよね、竹中さんが提案して、これ翌年ですか、これ政府の目標になっているんですよ。
 で、竹中さんの中には、PFI事業がどうかということなんか、提案の中ではほとんど語られていないですよ。こう言ってますよね。私、香港から帰ってきたで、仙台空港のコンセッションに関する説明会に五月に行った、百四十社集まった、今、海外の投資家はこのコンセッションに大変な関心があるんだ、こういう話から始まっているんですよ。何のことはない、国民の利益のためじゃなくて投資家の利益のために、新たなビジネスチャンスとして竹中さんが提案したとおりのことを盛り込んだPFIの促進の計画、これが出てきた。そうじゃないんですか、大臣、いかがですか。”

 梶山弘志大臣の答弁はこうだ。

 ”あくまでも個人の、個人というか委員としての意見ということであります。それに基づいて、いろんな意見がほかにもございます、その中で政府の方針を決めていくということであります。”

 選挙で選ばれたわけでもない民間議員の意見がそのまま政府の方針になる。これを個人の意見、委員としての意見ということで片付けていいものだろうか。

 また、産業競争力会議には、自治体の首長も参加する。2015年5月21日に開催された会合には浜松市長が出席し、ヒアリングが行われた。浜松市はこの時点で下水道事業のコンセッション導入を検討中であり、導入にあたっての課題や今後の予定、国への要望等、詳細にその現状を説明している。f:id:logicalplz:20181203212945j:plain

 2016年10月31日、「未来投資会議 構造改革徹底推進会合『第4次産業革命(Society5.0)・イノベーション』会合(PPP/PFI)」第1回会合での竹中氏の発言。

 “最後に1つだけ、本当にこれは重要な問題だと思うし、同時に難しい問題だと思います。集中強化期間を今年度に控えて、これをやり遂げなければいけないのだが、この議論を一番最初に出した時点で、私はデンマークAPMターミナルズの話とかヴェオリアの話をさせていただいた。成長戦略として議論しているということは、APMターミナルズという世界70カ国近くで港湾の運営をやっている企業が実際にある。日本にはない。それは日本ではそういうことがまだできないからだ。ヴェオリアは世界数十各国で水道事業をやっている。ヴェオリアは日本に進出しようとしているけれども、日本にそういう企業がない。それは日本でやらせてもらえないからだと。今、その集中強化期間で、しっかりと足元を固めなければいけないのだが、その先には、どういうふうにしたら成長産業、成長を担えるような企業が日本に出てくるだろうか。事業主体が出てくるだろうか。そういうことをぜひ念頭に置いた上で、足元の問題をしっかりと 議論を賜りたいと思う。
 猪瀬さんが副知事のときに、ヴェオリアというのは3兆円規模ぐらいで水道だけで1.5兆円の売り上げがあると聞いたが、東京の水道局は3,000億円ぐらいの規模があって、日本は1,300もの水道の事業主体があって、小さいのだが、東京は大きいわけである。なので、そういう東京の水道局みたいなものを民間化して育てて、世界に打って出るようなものにしたいという話を、猪瀬さんはしておられたわけである。今後、そういうことを視野に置いて、だからこそ足元をどう固めるかという議論をお進めいただきたいと思う。これはまた先の話であるが、成長産業だと。”

 水道事業のことを「成長産業」と位置付けているようだ。
 そしてこう締めくくる。

 “もう一つ、この間、新浪さんとお話しする機会があったのだが、我々は経済財政諮問会議で、行革、財政再建の観点からこのコンセッションにこれから大変注力をしてくるということだと思う。そういうところは私たちもしっかりと相談して連携をとるので、何とぞ各府省の皆様方の御協力をよろしくお願い申し上げたいと思う。”

 安倍首相がよく言う「官民一体」というのはこのことなのだろうか。こういった会議には大臣や副大臣、各省庁の審議官等が参加し、進捗状況の報告を経て、問題の共有、意見の交換が行われる。なお、竹中氏はこの会議の会長を務めている。
 
 このように議論がなされていく中、2017年3月21日、浜松市は下水道事業のコンセッションについて、優先交渉権者を発表する。
 公募により選ばれたのは、ヴェオリアJFEエンジニアリングオリックス東急建設・須山建設の企業連合だ。f:id:logicalplz:20181203224037p:plain

 同年10月30日、浜松市との正式契約が発表され、今年4月から事業を開始している。

 ここではヴェオリアではなく、オリックスが入っていることに注目してほしい。
 竹中氏は、2015年6月にオリックス社外取締役に就任している。

 
www.orix.co.jp


 内閣府に出向しているヴェオリア日本法人の社員が水道民営化にどのように関わったかは分からないが、竹中氏は水道民営化について話し合う政府内の会議のメンバーであり、下水道事業への民間企業の参入を検討している自治体の首長からそれについての課題や今後の予定、要望等をヒアリングできる地位にいた。
 結果的に、浜松市の下水道事業には竹中氏が社外取締役を務めるオリックスが参入することとなった。

 水道は人々の生命維持に欠かせないものであり、それについて国家の政策を決定する場合、慎重に慎重を重ねた議論が要求される。料金の値上げや水質の悪化を懸念する声が出てくるのは当然のことだ。
 また、利害関係者が制度設計に関わっていたり内部情報に触れているとしたら、その制度の公平性が揺らぐことになる。

 今回の水道法改正は誰のためのものなのか。民間事業者の参入についての公平性は担保されているのか。
 法案の成立を急ぐのではなく、政府与党は国民の声に真摯に耳を傾け、説明責任を果たさなければならない。











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